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2015.02.01

第2回「ブランドから見えるマーケティング戦略」セミナーレポート

2016年4月16日、株式会社アイ・エス・エス・コンサルティング(以下、ISSコンサルティング)主催の第2回『ブランドからみえるマーケティング戦略』セミナーが開催され、CAREER CARVER(キャリアカーバー)が当日の様子を取材しました。本セミナーにはMHDモエ ヘネシー ディアジオ、ユニリーバ・ジャパン、ジョンソン・エンド・ジョンソンのマーケティングキーパーソンが登壇し、第一部の講演では各社の「ブランドの強み」について語られました。第二部では「マーケティング戦略」「組織の強み」「キャリア」を軸にパネルディスカッションが展開されました。

新ターゲットは「ミレニアルズ」 ~モエ・エ・シャンドンのマーケティング戦略~

東海林ミカさん

MHDモエ ヘネシー ディアジオは現在、5つのシャンパンブランドのほかに、スパークリングワイン、ワイン、ヘネシーやオールドパーなどのスピリッツブランドをもっています。シャンパン5種のうち、モエ・エ・シャンドン、ヴーヴ・クリコ、ドン ペリニヨンが日本の売上トップ3で、なかでもモエ・エ・シャンドンは、1秒に1本、世界のどこかで開けられているといわれるほどの王道ブランドです。

モエ・エ・シャンドンをはじめ、私たちが扱っているのは歴史ある「ラグジュアリーブランド」ばかりです。ラグジュアリーブランドはどれも、「DNA」を大切にするもの。モエ・エ・シャンドンは1743年創業で、現在もフランス、エペルネにあるワイナリー「メゾン」のブランドチームがDNAを体現しています。彼らが毎年世界中にマーケティングの方針を発信して、それを各国がローカライズしていく体制を取っています。

モエ・エ・シャンドンのDNAは4つの言葉に集約されます。最初の2つは、「SUCCESS(成功、達成を祝福すること)」と「GLAMOUR(エレガントで社交的な場にふさわしくあること)」。もともとシャンパンは貴族の飲み物で、モエ・エ・シャンドンは昔も今もイギリス王室御用達です。ナポレオン1世も戦いの前にモエ家を訪れ、黄金色に輝くシャンパンで勝利を誓ったといわれています。現在もスポーツの表彰式や祝福の場で最も有名な勝利の証として、モエ・エ・シャンドンが華々しく開けられています。3つ目は「GRANDEUR(比類なき壮大さ)」。シャンパーニュ地方最大の所有面積を誇る広大なブドウ畑が、モエ・エ・シャンドンのクオリティーを保っています。4つ目は「GENEROSITY(寛容な分かち合いの精神)」。私たちは、長い歴史の中で、「寛容な分かち合いの精神」と「社会に対する責任」を大切にしてきました。今もチャリティーなどを通して、積極的に社会貢献していくブランドであり続けています。

私たちはマーケティングを通じて、食事の場、お祝いの場などでいかに「シャンパンを楽しむオケージョン」をつくるかを重視しており、昨年からはモエ・エ・シャンドンを思い出していただく「モエ・モーメント」を増やそうと工夫を凝らしています。デパート内にPRスペースを設けたり、東京ミッドタウンで「モエ ガーデン シネマ」を開催するなど、さまざまなタッチポイントをつくり、コミュニケーションを図っています。

シャンパンの日本市場は基本的に右肩上がりで伸び続けていますが、市場そのものはまだまだ小さく、マーケットの拡大が重要となってきました。昨年からは、メゾンが2000年以降に生まれた「ミレニアルズ」を新たなターゲットに据えた方針を打ち出し、グローバルで展開しています。現在のユーザーの平均年齢は約38歳。若手層のマーケットを広げようというチャレンジです。日本でも、デジタルコミュニケーションを増やしたり、ゆかたイベントなどを積極的に行うなどして、若い皆さんに飲んでいただくオケージョンをつくり、彼らのライフスタイルのなかに入っていこうとしています。

「人」にどうメッセージを届けるか ~CLEARのマーケティング戦略~

ユニリーバには、「Crafting Brands for Life」というグローバル共通のマーケティングフレームワークがあります。フレームワーク自体は細かいのですが、大きな方針の柱は「Put People First」「Build Brand Love」「Unlock the Magic」の3点です。「Unlock the Magic」はクリエイティブに関することですので、ここでは省略して、最初の2つについてご説明します。

「Put People First」は、日本語に訳せば「まずは人ありき」という意味です。特徴的なのは、「consumer」ではなく、「people」であること。私たちの人生にはそれぞれいろいろなことがあって、ヘアケアのことにいつも頭を巡らせているわけではありません。我々マーケターはどうしても商品についてよく考える「消費者」を想定しがちですが、そんな人はいないのです。それどころか、多くの方はヘアケアのことを月に1分も思い浮かべればよいほうでしょう。そのことを前提にして、メッセージをどのように届ければよいかを考えることが大切なのです。「Put People First」が示すのはそうしたことです。ダヴは最近、「Dove Choose Beautiful」というマーケティングアクティビティを行いました。世界各国で、ビルに「美しい」と「普通」の2種類のドアを設け、女性にどちらを入るか選んでいただいたのです。そこでわかったのは、自分を美しいと表現できる女性はどの国にもおよそ5%しかいないという事実。これが「人」なのです。

中川晋太郎さん

「Build Brand Love」とは、欲しい商品ではなく「愛されるブランドを創る」ということです。そのために重要なのが「存在意義」です。その商品があると、世界がどう変わるのかが明確に定義づけられていれば、自ずと強いブランドになるのです。たとえば、日本では展開していないのですが、ユニリーバには「Lifebuoy」という薬用石けんブランドがあります。主に発展途上国で発売しているブランドで、子供たちの衛生環境を改善し、下痢や肺炎などにかかる率を劇的に減らして、彼らの生存率を大幅に高めています。これはわかりやすい例ですが、ほかの商品でも同様に、商品の存在意義がより良いブランドの構築につながります。

「CLEAR」は男性向け・女性向けの両方の商品をもつことに特徴のあるヘアケアブランドです。ヘアケア商品は一般的に女性向けが多く、私たちも男性向け商品の知見が少ないのが課題のひとつとなっています。そのため、男性向け商品は、リピート率は大変高いのですが、途中から新規トライアル率が伸び悩むようになりました。さまざまなチャレンジを行い、そのたびにある程度の結果は出るのですが、少し物足りなかった。そこで私たちが推測したのは、「男性は人として、基本的にそれほどヘアケアに興味がない」ということです。その反面、こだわりやファン心理が強いのが男性の特徴です。そこで、野球、サッカーなどのスポーツチームにターゲットを絞り、各スポーツやチームの特徴を捉えたプロモーションの展開を始めました。こうしたマーケティングのチャレンジは、成果の測定が難しいため、普通はなかなか行いにくいものですが、「Put People First」や「Build Brand Love」を重視したフレームワークがあったからこそ、私たちは一歩を踏み出すことができたのです。

商品価値から「カテゴリー価値」へ ~リステリンのマーケティング戦略~

リュウシーチャウさん

ジョンソン・エンド・ジョンソンは、昨年からマーケティングイノベーションを実施し、ビジネスの成長率を8%まで高めることに成功しました。その成果の一例として、私が担当しているリステリン(R)の最近の動きをご紹介します。リステリンは、100年以上前にできた世界最初のマウスウォッシュ商品です。アルコールが20%も入っており、消毒効果は抜群。歯以外の口内の75%を洗い、歯肉炎・歯垢の沈着・口臭を予防できる商品として、現在では世界50カ国以上で愛用されており、世界的に圧倒的なシェアを誇っています。しかし、その一方で、日本ではマウスウォッシュを購入しているのは4人に1人にすぎず、購入した人も3日に1回しか使っていない状況が、ここ5年ほど変わっていませんでした。シェアは十分でも、マーケットカテゴリーの規模は決して十分ではなかったのです。カテゴリー価値を高める必要がありました。

そこで私たちは、マーケティングの資源を「カテゴリー価値の向上」に集中することにしました。まず、CMキャンペーンを大きく変えました。「歯周病」や「バイオフィルム」などの専門用語を前面に出して、機能や価値を中心に訴求するのを止めました。その代わりに、「リステリンで大胆に生きよう!」という新たなキャッチフレーズのグローバル展開をスタートしています。世界的な調査の結果、リステリンを使っている方は、比較的大胆だということがわかったからです。

また、これまでは予算のほとんどをCMに割いていたのですが、CMの予算を減らし、歯科医の方々へのPR活動を強化することにしました。CMだけでは、新規ユーザーにはなかなか買っていただけないからです。カテゴリー価値を高め、多くの方の購入につなげるためには、カテゴリーの専門家に薦めていただくことが効果的だと判断しました。同様の理由から、ニュース番組などでのPRにも力を入れています。また、ソーシャルムービーをつくってSNSで拡散していく、景品として1年分の試供品やタンクトップを配る、広告で電車ジャックをするといった「大胆な試み」も始めています。実は、まだキャンペーンが始まってから10日しか経っていないのですが、その間に私たちのビジネスは約10%も伸び、同時に競合も売り上げを伸ばしています。グーグル検索も増えており、ツイッターでの情報拡散も進んでいます。今のところは、狙いどおりにカテゴリー価値の向上を果たすことができているのです。

ブランドから紐解く「マーケティング戦略」「組織の強み」「キャリア」

第二部は、ISSコンサルティング代表取締役社長の関口真由美氏がファシリテータとなり、「ブランド」「コーポレート」「キャリア」を軸にディスカッションが展開されました。

そこで私たちは、マーケティングの資源を「カテゴリー価値の向上」に集中することにしました。まず、CMキャンペーンを大きく変えました。「歯周病」や「バイオフィルム」などの専門用語を前面に出して、機能や価値を中心に訴求するのを止めました。その代わりに、「リステリンで大胆に生きよう!」という新たなキャッチフレーズのグローバル展開をスタートしています。世界的な調査の結果、リステリンを使っている方は、比較的大胆だということがわかったからです。

関口:
今日いらっしゃっている皆さんに、事前のアンケートで「あなたが考えるブランドの強さを教えてください」という質問に答えていただきました。そのアンケートで多かったのが、「信頼感」「イメージ」「ストーリー」「価値」「認知度」「継続性」といったキーワードです。この結果について、どのように思いますか。

中川:
お話ししていなかったことで、私がよく意識しているのが、「このブランドを嫌いな人がいるだろうか?」ということです。可もなく不可もなくというのが一番面白くない。嫌いな人がいるブランドじゃないと、好きな人も増えないと思うのです。

リュウ:
私もその意見に同意します。ブランド戦略とは何を捨てるかだと思います。

東海林:
シャンパンの場合は認知度が重要です。忘れられないようにしなくてはなりません。シャンパンを飲む人を増やしたいとは思っていますが、無理やり増やすことはしません。その意味で、やはりチャネルを選んでいます。

関口:
ブランドには捨てる勇気が必要だ、捨てることで浮かび上がってくるものがあるということですね。それでは次に、皆さんのマーケティング戦略の共通点・相違点をお話しできればと思います。

中川:
モエ・エ・シャンドンが「モーメント」を価値と考えているというのは勉強になりました。日用消費財のマーケティングはどうしても製品寄りのマーケティングですから。

リュウ:
おっしゃるとおり、私もどうしても思考が製品寄りになってしまいます。リステリンにしても、たとえばキスするときなど、オケージョンをどうやって増やすのかという視点で考える余地があると思いました。

中川:
自分で話しておいて何ですが、「人」を日々意識するのはけっこう大変なことですね。

リュウ:
本当に大変だと思います。私は前職では足に関わる製品を扱っていましたので、毎日皆さんの足しか見ていませんでしたし、今は口しか見ていません。そうしながら、一方で普通の人になるというのはとても難しいことです。

話す登壇者ら

東海林:
モエ・エ・シャンドンでは、認知度以外のコンシューマーリサーチがありません。リサーチするのではなく、こちらがどのようなブランドになりたいかを考え、打ち出していくのがラグジュアリーマーケティングなのです。来ていただきたい人たちに、どうしたら来ていただけるかを考えるマーケティングです。

リュウ:
日用消費財は、必ずと言ってよいほどコンシューマーリサーチを行いますが、リサーチ結果に応えようとして失敗するケースがよくありますね。

中川:
リサーチのときは消費者に答えを聞こうとしてはダメですよね。あくまでも消費者を観察する場だと思います。リサーチも大事ですが、それ以上に、ターゲットの心理を具体的に想像することのほうが大事だと思います。ユニリーバには「AXE」というブランドがあります。以前10年ほど、「使うとモテる」というわかりやすい広告を打っていましたが、最近の20代には、そうしたコミュニケーションではなかなか買っていただけません。モテようとしている自分が恥ずかしいと思うからです。その代わりに、40代のバブル世代に売れる。買う人の「これを買っている自分ってどう?」をきちんと想像する必要があります。

東海林:
時代の変化を捉える必要もありますね。5年ほど前は、スカーレット・ヨハンソンが宮殿のようなところでモエ・エ・シャンドンを飲むゴージャスなCMを流していました。その頃はまだ、ドラマに出てくるOLが代官山などの高級マンションに住んでいる設定がよくありました。ありえないような豪華なイメージをポジティブにとらえる傾向があったのです。対して、今は、身近な場面を描写して、共感を求めていくドラマばかりになっています。ハロウィンの仮装行列などが良い例ですが、ミレニアルズにとっては、いかに仲間たちと同じ時間を共有するかが大事なのです。モエ・エ・シャンドンも、彼らに受け入れていただくためには、手に届くところで飲めるようにする必要があると感じています。

関口:
ありがとうございます。では最後に、キャリアについて、お伺いできればと思います。仕事をする上で、どのようなことを大切にしてきましたか。

中川:
昔は明確な夢を描いて、それをいつまでに達成するとスケジュールを立てていましたが、今は、やっていて楽しいことを、やっていて楽しい人々と一緒にやることを大事にしています。個人的には、それで帳尻が合うのが人生だと思っていますね。

東海林:
衣食住に関わりたいと思って食品会社に入り、CMをつくりたいと代理店に転職し、最終的には好きなブランドで働くのが一番楽しいのではないかと思ってMHDに移りました。振り返ると、がむしゃらに働いてきましたが、やってきたことは無駄ではなかったと思います。

リュウ:
偉くなるといったことではなく、楽しいと思うことを仕事にするのが大事ではないでしょうか。私は、自分が動いたことで数字が伸びていくのが楽しい。どのように達成するかを考えて、結果を出すのが気持ちいいのです。この仕事は趣味のようなものです。

セミナーを終えて

今回のセミナーでは誰もが知っているブランド、かつ、それぞれ異なる業界でのブランドマーケティングのビジョンや事例、そのマーケティングの第一線で活躍されている御三方のキャリアを聞き、刺激を受けた方は大勢いらっしゃったのではないでしょうか。

今回外資系企業のマーケッターの方が多いと思いきや、国内の大手メーカーや商社、行政機関ほか、さまざまな業界・業種の方に参加いただきました。このISSコンサルティング主催セミナーは、転職活動をしている人だけではなく、現在の仕事に役立てたいとか、自分の会社を元気にしたいとか、それこそマーケティングを勉強したいからという方にも参加いただいています。もちろん、このセミナーに参加したことで転職を決意する方もいます。こうしたセミナーが、ご自身のキャリアを考えるきっかけとなればうれしい限りです。

また、ISSコンサルティングでは、外資系企業で活躍するビジネスリーダーたちに仕事観やキャリアを伺ったインタビュー記事を連載しています。今回登壇いただいた東海林さん、中川さん、リュウさんのインタビューも掲載されていますので、ぜひこちらも合わせてご覧いただけると幸いです。

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