2,000人以上と面談したヘッドハンターの業界トレンド情報:「金融編」

多くのヘッドハンターが在籍する「CAREER CARVER」。その中から業界経験10年以上、約2,000人以上と面談したヘッドハンターにご登場いただき、担当業界の動きや採用トレンドを語っていただきます。

今回は、金融業界に強みを持つKANAEアソシエイツ株式会社の阪部哲也さんに、業界の動向と展望、どんな人が採用されているか、金融業界で働く魅力などを伺いました。

「フィンテック」をキーワードにIT・ネット人材のニーズが拡大中。自身の「強み」を活かし、AIにはできない「自身の強み」に注目し、磨き続ける人が評価される時代に

「マイナス金利」導入で、オルタナティブ運用関連の人材ニーズが拡大

今の金融業界において外せないキーワードは、「マイナス金利」です。2016年1月、日銀が、日本では史上初となるマイナス金利の導入を決定しました。それにより、民間の銀行は超低金利にさらされていますが、一方で投資家にとってはチャンスが拡大。買収ファイナンスやM&A、投資銀行業務などの需要が急拡大し、これらに関連する人材の採用ニーズも増加しています。

運用面では、国債や外国債といった伝統的な運用では利益を生み出しにくいことから、オルタナティブ運用(ヘッジファンド、不動産投資、デリバティブなど伝統的な運用以外の運用方法)が拡大しています。これに伴い、オルタナティブ運用に関わる採用ニーズも旺盛な状態が続いています。これらの領域において高いスキルを持つ方は、引く手あまたの状態がしばらく続くでしょう。

フィンテック拡大によりIT、ネット人材が大量流入する一方で、事務職は縮小

もう一つの大きなキーワードであり、かつ業界構造をも大きく変えようとしているのが「フィンテック」。金融とITを融合した金融工学における技術革新のことで、さまざまな投資ツールやサイバーセキュリティサービスなど、新しいサービスがどんどん生まれています。

フィンテックは今後、金融のあらゆる分野に入り込んでいくことは間違いありません。象徴的なのが、みずほフィナンシャルグループがソフトバンクと提携して、フィンテックを活用した個人融資事業に参入したこと。個人が専用アプリに個人データや資金使途などを入力すれば、それをAI(人工知能)が判断し、融資の上限額などを判定します。従来は人がやっていたことがAIに置き換わり、低コストで事業運営が可能になります。このような金融とITの融合による新たな動きは、今後も活発化していくでしょう。

このようなITの最先端知識を持っている人は金融業界にはきわめて少なく、2016年はネット関連企業のかなりの人材が、金融業界に流入しました。一方で、「個人情報を見ながら融資の可否や融資額を判断する」などといった、今まで人海戦術で行ってきたものはAIに取って変わられ、金融業界の事務職はどんどん削減されています。新しいビジネスに係る人材は大量流入し、金融業界が人手に頼ってきた既存の役割は奪われる、そんな構図となっています。

「AIができないことは何か?」を考え、自身のスキルを磨くべき

阪部哲也さん

世の中には変わるもの、変わらないものがあります。人は誰もが、自分らしさを発揮したいと思うものであり、この思いは昔の人も今の人も同様に持っているものですが、一方で我々を取り巻く「時代」はどんどん変化しています。この変化への対応が、ビジネスパーソンにも求められるでしょう。

とはいえ、決して「オルタナティブに飛びつけ」「フィンテックに入り込め」と言っているわけではありません。時代の流れに飛びついても、またその流れは変わっていくからです。

それよりも、AIに取って代わられないために、「AIができないことは何か」を考えるべきだと私は思います。例えば、人と交渉したり、人を束ねたり、人を勇気づけるなどと言ったアナログなことはAIにはできません。数理的な分野ではAIにはかないませんが、より人間的な触れ合いや、人と人とのコミュニケーションが求められる分野に注目し、スキルを磨いたほうが、高い市場価値につながると考えています。

これからのビジネスパーソンは「人間味」「個性」の発揮が重要になる

これは金融業界に限らず、あらゆる業界において言えることですが、これからのビジネスパーソンはより「人間味」や「個性」の発揮が大事になると思っています。これらは、いくらAIが進化しても絶対に参入できない、人ならではの領域だからです。

そして、これからは自身の「強み・弱み」を理解し、弱みを克服するのではなく、「強みをさらに磨き、伸ばす」ことに注目したほうがいいと私は思います。

今の時代は、「毒にも薬にもならない没個性の人」よりも、「多少弱みはあるけれど、それを打ち消すほどのすごい強みを持っている人」が採用されます。先ほどの話と関連しますが、ものすごい強みとは、すなわちその人の「個性」だからです。

ヘッドハンターとして、今までに2,000人以上の方の面談を行ってきた私の経験から見ても、この傾向は明らかです。企業は採用選考の際、職務経歴や経験、スキルももちろん確認しますが、採用の決め手になるのは、「その人"らしさ"が感じられるかどうか」。単に真面目で優秀な人ではなく、技術、知識、マネジメント、コミュニケーション力などの分野で自分の得意分野を理解し、その分野で「振り切れている人」に、その人ならではの個性を感じ、高く評価する傾向にあります。

今の金融業界がまさにそうで、ゲーム業界やネット業界にいた「お堅い金融業界にはちょっと合わなさそうな思考やスタイルを持った人」であっても、「振り切った個性」を評価して採用しています。日本を代表するメガバンクが、普段はスーツを着る習慣のない方を歓迎する…なんて、以前の金融業界では到底考えられなかったことです。

今後AIがさらにあらゆる分野に入り込み、多くの事務的業務を席巻していくことを考えると、新しい技術やスキルを習得するよりも、人とのかかわり合い方について見直したり、自身の今の強みに注目して磨き上げたりするほうが、高い市場価値につながると感じています。

新旧の価値観が拮抗する金融業界は、イノベーションを起こしやすい魅力的な環境

阪部哲也さん

今の金融業界は、AI、フィンテックという「新しい価値観」と、従来型の金融業界で脈々と受け継がれてきた「既存の価値観」が拮抗している状態にあります。まさに大きな変貌を遂げる過程の混沌とした状態にありますが、ビジネスはこのような状態の時が面白かったりします。

金融とITが混ざり合うに伴い、人員も混ざり合いつつあります。就職活動の時は、金融業界なんて露ほども思わなかったIT・ネット系人材が大量に金融業界に流入し、さまざまなイノベーションが起きています。そして、金融業界には、IT・ネット系には存在しない、「金融という伝統的で保守的な業界で戦い続け、上り詰めた、金融業界ならではの傑物」が存在します。そういう魅力的な人と触れ合い、学びを得るチャンスも広がっています。

今までITやネット領域で培ってきた経験とスキル、知見は、社会的信用力、資金力のある、よりエスタブリッシュ(社会的に確立された)な業界でアウトプットするほうが、より大きなイノベーションを起こせるでしょう。そして、金融業界自体も、経験やスキルはもちろん、違う業界出身者ならではの視点や意見、考え方を欲しています。自身の個性を発揮しながら、新しく、面白いことができる業界だと思います。

それに、IT業界の人がそのままIT業界に居続け、地道にキャリアを積み上げるよりも、同じスキルを持つ人が少ない金融業界であれば、一足飛びで上を目指せる可能性が大です。会社の今後の方向性を左右する、大きな役割を任されるチャンスも大きいでしょう。

なお、これはビジネスパーソン全般にも同様に言えることです。このように「自身が得意な領域において、後れを取っている環境」を目指すのは、キャリアを伸ばすうえで有効です。普段の仕事の中でも「自分は得意だけれど、周りの人は得意ではない領域」に注目し、磨く努力をすると、他者とは異なる「あなたならではのキャリア」が築けるようになり、あなたの武器になるはずですよ。