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2015.02.01

収益を進歩に変えるインドネシアのコーヒー農家

インドネシアのマラバール山でコーヒー豆を摘む女性。かつてこの地域の樹木は、作物栽培のために伐採されていたが、今は元の状態に戻っている。

※参考資料

“The Indonesian coffee growers turning profit into progress” by Gabrielle Dunlevy

世界の熱帯雨林を危機にさらしているコーヒー栽培。しかし、インドネシアの農家が生態系と経済は共存できるということを証明している。

インドネシアには、ある夢があります。インドネシアの貿易相トーマス・レンボン氏によると、17,000もの島からなるこの群島国家は、自国のコーヒーが「21世紀の飲み物」になるまで成長を続けられるよう取り組んでいるそうです。同国の熱帯の山腹では、農家がそのビジョンを、持続可能な現実にするべく活動しています。

インドネシアでは、かねてよりコーヒー産業が好調で、2015年には輸出高が前年より15%増の、11億9,000万ドルに達しました。また、4月にアメリカで開催されたコーヒー見本市「SCAA(アメリカスペシャルティコーヒー協会)エキスポ」では、コーヒー産業が海外で大成功を収めている同国に、特別な注目が集まりました。その開会式にてレンボン氏は、コーヒーがいかにアイデアを刺激するか、つまりジャカルタのコーヒーがシリコンバレーで創造性を高めていることを指摘しました。

「皆さんにお楽しみいただいているインドネシア産のコーヒーが、我が国の多くの農家を支えています。生計手段であるにとどまらず、生き方そのものなのです」

しかし、その見本市と同じ頃、非営利団体のコンサベーション・インターナショナルが、ある研究を発表しました。気候変動によって、世界のコーヒーの供給は2050年までに、深刻な打撃を受けるだろうというのです。『21世紀のコーヒー』と題されたそのレポートによると、増加する世界のコーヒーの需要を満たすには、2050年までに現在の3倍もの生産量が必要となるそうです。2050年にコーヒー栽培に相応しいと考えられる土地の60%は、現在の熱帯雨林にあたるので、今後のコーヒー栽培は、森林破壊の大きな脅威となると考えられています。

21世紀のコーヒー

インドネシアのコーヒーが、レンボン氏の言うように「21世紀の飲み物」になるには、気候変動に合わせ多くの工夫をしていく必要があるでしょう。

そろそろ収穫:マラバール山で、摘み取り業者が、木になった未だ熟していないコーヒーの「実」を調べている。赤く色づいたら実を摘み取る。実の内側がコーヒー豆だ。

現時点では、インドネシアは、スペシャルティコーヒーを育てることに秀でています。スペシャルティコーヒーの多くはアラビカ種で、エスプレッソなどカフェで出されるコーヒーに使われています。より安価で人気のないロブスタ種は、低い標高で太陽の下で栽培できますが、アラビカ種は、昔からより高い標高で日陰の下で栽培されてきました。

SCAAエキスポに並んだ17種のインドネシア産のコーヒーには、認定を受けたグレーダーが商品の質を評価する、カッピング(テイスティング)テストで、全て100点満点中83.5点以上のスコアがつきました。業界の専門家たちは、ワインでよく言うように、これは「他に類をみない」コーヒーであると激賞しました。コーヒーのワイルドな香りとフルーティさが賞賛されたのです。

見本市で人々をうならせたのは、西ジャワ州のマラバール山産の商品です。山の斜面は木々に覆われ、深い霧によって涼しく保たれています。インドネシアがアジア通貨危機に見舞われた1990年代後半、より多くの人々が野菜の栽培で生計を立てようとし、以前守られていた山の木々は農業のために伐採され、土壌の浸食、下流の汚染が進んでしまいました。

エコノミーではなくエコロジー

ヌーリとして知られる、スプリアトナディヌーリは、マラバール山麓の村、パシア・ムリア出身のコーヒー農家です。

マラバール山麓の村、パシア・ムリア

2002年にヌーリらは、土壌の浸食を食い止めるため、崩壊した山腹にコーヒーの木と、そこに日陰を作るその土地原産の様々な樹木を植えました。彼は、その動機は「エコノミーではなくエコロジー」にあると言います。

新鮮:木から摘みたてのコーヒー豆。

「木々は伐採され、数年で、ここは再び見捨てられた土地となりました」とヌーリは振り返ります。「雨が降れば、村は洪水になりました。暑い日には、村は乾燥し、ほこりまみれでした」

今日、この山を登ると、豊かな生態系が広がっています。コーヒーの木と、そこに陰を作るその土地の樹木の中で、沢山の虫や、爬虫類、さえずる鳥たちが生きているのです。彼らは森を生い茂らせることを目標としていましたが、より大きなものを成し遂げました。

10年足らずで、マラバール山の限られた量の収穫物は、人々に求められる商品となり、その強くて豊かな味わいが海外から賞賛を得るようになりました。

コンサベーション・インターナショナルのレポートでは、気候変動は、暖かい気候に適合しにくいアラビカ種に打撃を与えると予測されています。栽培者は、ロブスタ種に植え直すか、まだ伐採されていない、より標高の高い場所に移動しかねません。

しかしヌーリは、さらに山の上の森を切り開いてまで量産しようという気にはならないと言い、モットーとする「エコノミーではなくエコロジー」を繰り返します。

遡ること2006年に、名高い“ウェストジャワ”コーヒーのバイヤー、ナタナエル・ハーリスが、ヌーリらに会い、オーガニック栽培とより良い製造工程の知識を伝授しようと申し出てくれました。努力のかいあって2008年には、政府の後援で栽培農家のワークショップが開かれます。翌年ここで収穫されたコーヒーは、オーストラリアの有名なバイヤー、“トビーズ・エステート・コーヒー”の基準を満たしました。

「マラバール山の農家はさらにどんどん成果を上げていますよ…」とナタナエルは言います。「自然環境にも、また地域にも良い結果をもたらしているのです。」

今 “ウェストジャワ”から得た知識は、他の地域でも求められており、ヌーリはスラウェシとロンボク島の地域でも収穫高を上げ、所得を増やせるよう支援しています。

人気店:バンドンにあるカフェWiki Koffieは大勢の若者を惹きつけている。

ロンボク島のセンバルン村は、インドネシアで3番目に高いリンジャニ山をはじめとする山々に囲まれた谷間にあります。そこのコーヒーの木は大半が1980年代に伐採され、ニンニクに取って代わられました。残したコーヒーは品質が悪く、コーヒー豆1㎏に対して、小さな塩漬けの魚2匹としか交換できないほどでした。

3年前、MS・ワタンという地元の農家と仲間たちが、“サンカビラ”という協同農場を作りました。その目標は、文化的知恵と古い伝統を復活させることでコミュニティに新たな富をもたらすことでした。彼らの1人がコーヒーを育てており、2014年、ヌーリがオーガニック農法と環境第一の価値観を伝えるために訪れました。

それがサンカビラと 彼らが“パーラワン”と名付けたアラビカコーヒーの突破口となりました。パーラワンとはインドネシア語で“ヒーローたち”を意味します。

「私たちがここのコーヒーを“パーラワン”と呼ぶのは、他の誰でもない、自分だけが己の人生を変えられるからです。私たちは農家ですから、私たち農家だけが自らの人生を変えられるわけです」とワタンは言う。

たくさんのコーヒーの木を移植したおかげで、センバルン地区ではがけ崩れが止まった、とワタンは言います。また彼らの作るチョコレート風味のあるミディアムボディのコーヒーは収穫の度に改善されていて、コーヒー通たちを感嘆させています。

収益を進歩に変える

ヌーリの支援により生産量が増え、その収益は学習室建設の資金となりました。そこは年代を問わず村人の誰もが参加できる場所です。あるコーナーでは、就学前の子供たちが絵本を読んでいたり、別のコーナーでは母親たちが副収入を得ようと手工芸品の作り方を学んでいたりします。

ワタンは環境保全の取り組みに全面的に賛成しています。「ここで一番重要なのは、私たちが“地球の肺” にあたる木々を移植しているということです。ヌーリが訪ねてくれたことで私たちはとてもやる気になったのです。彼が来てからは、ここのコーヒーの品質は断然良くなりました。その前は品質が悪かったのですが、それはどう面倒を見ればよいか分からなかったからです」

コンサベーション・インターナショナルも、スマトラ島全土で栽培農家を後押ししており、かねてから変わりやすい天候と害虫の発生に立ち向かっています。政府機関と連携して、改良された日陰栽培農法、森、淡水の保全に注力して支援を行っています。

同団体の広報官、チェース・マーティンは、 “生産と保護”のアプローチで生産は上げられると言います。つまり、集約化により森、水、その他の天然資源に対する影響が低いような土地を特定すること、そしてそこで生産性を上げ、付近の森を保全するために取り組むことを意味します。

「多くの研究が示してきたのは、日陰栽培であれ、日向栽培であれ、生産方式の改善に照準を合わせることが、結果的に生産性の向上につながるということです」とマーティンは語ります。

また、厳しい条件に耐えうる新たな品種を導入することで、今の生産エリアに似た条件の土地を新たに開墾して栽培せずに済むでしょう。

もちろん、そうした傾向を熟慮しなくてはならないのは、何も栽培農家だけではありません。コーヒーの愛飲家にも、果たすべき重要な役割があります。

バンドンを本拠地とするカフェ“モーニンググローリー”では、オーナーのチャリスがカフェ体験の一環として、客に無料でカッピングや知識を提供しています。そこのコーヒーのパッケージには原産地の農家のストーリーと写真があしらわれ、消費者と栽培農家をつないでいます。チャリスはそうした積み重ねが、ひいてはコーヒー文化の重視につながり、その間に得られることは栽培農家の福利の向上になると信じています。

「本当に重要なことは、コーヒーの産地がどこかではなく、どれほど農家が稼げているかなのです」

“コーヒー愛飲者”の定義は、21世紀には書き換えられようとしています。もはや一日に5杯飲む習慣のある人を指すのではなく、栽培農家とその天然資源の繁栄をサポートする選択をした人のことを指すのです。

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