「転職氷河期」到来となるのか?いまエグゼクティブが転職で明確化すべき3つの「なぜ」

新型コロナが経済、社会、雇用に及ぼす影響が表れ始めています。

総務省が3月31日に発表した2020年2月の労働力調査によると、完全失業率(季節調整値)は前月比横ばいの2.4%で、その時点ではまだコロナの影響は失業率には表れていませんでしたが、総務省は今後の雇用情勢について「新型コロナウイルス感染症の影響については注視していきたい」とコメント。一方では厚生労働省が同じく3月31日発表した2020年2月の有効求人倍率は1.45倍(季節調整値)で、前月に比べて0.04ポイント下がりました。これは2年11カ月ぶりの低い水準で、1月に0.08ポイント下げており2カ月で0.1ポイントを超える下げ幅になるのは2008〜09年の金融危機以来となります。厚労省は「一部の産業では解雇や休業の動きが出始めており、今後、注視していく必要がある」とコメントしています。

この原稿執筆時点の4月中旬で発表されている統計データでは上記の通りとなりますが、当社での幹部クラスの転職ご相談者の方々の動き、ご相談内容を拝見していますと、特に3月下旬〜4月に入ってからは具体的にコロナの影響での事業状況の悪化や所属企業の操業停止、今後の事業継続性疑義が転職活動の理由となっているお話もぐんと増加しています。
キャリアカーバーユーザーのエグゼクティブ各位にも、年明けまでとは大きく異なる転職活動を強いられる可能性が高まっているのは事実でしょう。そして何より不透明なのは、この緊急事態宣言などがいつまで続くか見通しにくいことです。

新型コロナ下、エグゼクティブの皆さんが、これからの転職活動においてどう活動すれば、難易度が上がるであろう幹部採用を勝ち抜くことができるでしょうか?
それには私は、<3つの「なぜ」の明確化>が必須となると考えます。それぞれについてご説明しましょう。

転職理由に対する「なぜ」の明確化

まず第一に、「この時期に、あえて転職する理由」が、応募先企業からみて納得できるものかが、これまで以上に強く問われます。

冒頭にご紹介した通り、新型コロナの影響を直接受ける産業に従事されていて、やむない転職の事情が発生している方もいらっしゃるでしょう。
一方では、従来通りの「なんとなく」の現職不満や現状の閉塞感から活動されている方も少なくないと感じます。
これまでも当連載や他の場所でも折々お話ししてきている通り、現状の不満から転職を考えること自体は理解できることです(そもそも現職が満足であれば、転職は考えないでしょうから)。しかし、「出たい理由」だけでは、望ましい転職の成功は覚束ないものとなります。

「こういう状況を、こう打開したい」「こういう現状から、次にこのような場に移りたい」という明確な展望。そして、「それは、これこれ、こういう理由、事情から」という<なぜ>を、しっかり語れることが必須です。
これを転職希望先の経営者や人事採用責任者の方が聞いたときに、「なるほど、確かに、それはその通りですね」と腑に落ちて共鳴・理解してくれる転職理由があることが、スタートラインとしてまず欠かせません。

今後、どう働いていきたいかに対する「なぜ」の明確化

次に、なぜ、どうして、「今後、そのように働きたいのか。そのような役割に就きたいのか。そのような企業、業界に行きたいのか」が、応募先企業に明確に伝わることです。

応募先企業は、あなたのその希望職務、希望役割に対するコミットメント、パッション、ビジョンを“買う”わけです。それと自社の求めている幹部人材像、ポジションに着任いただきたい人材要件とを照らし合わせてマッチングし、「まさに、あなたのその今後の職務展望や情熱を、我が社のこのポジションで思い切り実現してください」と(前のめりで)思える方にオファーするのです。

こういう話をしますと、特に30代世代のマネジメント・リーダー層人材に折々多く出現する<夢見る野心家>タイプがいらっしゃって、「早く経営職に就きたい。CxOをやらせてほしい」というようなお話になります。これは気をつけていただきたいところです。

そもそも今、これまでの職務をしっかりやり切って実績を出してきているのか?その上であればOKなのですが、足元の経験や成果が覚束ないまま「自分はこんなものではない」と現状以上のポジションなどに固執してしまうのは、キツい言い方かもしれませんが、無謀な先走りです。

ディズニーCEOとして在任中にピクサー、ルーカスフィルム、マーベル、21世紀フォックスを次々と大型買収してディズニーの業績・企業価値を飛躍的に伸ばした名経営者、ロバート・アイガー氏は自伝的近著の中で、こんなことを言っています。

「野心が先走るとチャンスを逃してしまう。将来やりたい仕事やプロジェクトばかりに固執すると、今いる場所が我慢できなくなる。今ある責任をきちんと果たせなくなるようでは、野心がむしろ邪魔になりかねない。今の仕事で成果を上げ、じっくりと辛抱強く待ち続け、チャンスがきたらそこに飛び込んで活躍することが大切だ。勤勉さと活力と集中力を発揮し、チャンスが浮上した時に、上司から頼られるような存在になろう。」
(引用:ディズニーCEOが実践する10の原則/早川書房)

世界的・歴史的名経営者のこの言葉を、ぜひ胸に刻んでいただければと思います。

御社に参画したい気持ちに対する「なぜ」の明確化

そして第三に、「応募先企業への志望度は本物か、本気か。入社後コミットし続けられるものか。それはなぜなのか」について、相手経営者が頷いてくれるか、心揺さぶるくらいの熱があるか?です。

転職活動をされる皆さんの目的が「多くの求人案件に応募すること」になってしまっているケースが、残念ながら未だに少なくないという現実があります。
ポジション名称が、職種が自分の経験や希望に合致しているから。年収が希望に合うから。エグゼクティブ層の方々であっても、そのくらいの情報検索で、ぽちぽちと案件エントリーをされている場合があります(我々、受けている側から見ますと、「相当な数」あります…)。

これまでももちろんではあるのですが、ここから新型コロナの影響も含めて景況感の厳しさが浮き上がってくると思われる中で、採用する企業側もこれまで以上に採用選考は厳選モードに入るでしょう。絶対に間違った人は採用しない、できない。基幹人材は絶対に必要だが、相当に機能してくれる人でなければ採用しない。このスタンスが数段強まるはずです。

ですから応募される皆さんが、その企業や事業、その中での職務に対して、相当具体的にイメージできていて、「ぜひ、それを私に任せてほしい」「ぜひ、私に貢献させてほしい」というものが企業側にストレートに伝わらない限り、その応募者を採用することには至らなくなってきます。
企業側、特に経営者は、あなたが我が社に参画してくれて、中長期的に情熱を持って活躍してくれるだろうと信じられたときに初めて、採用オファーをするということを、しっかり念頭に置いてください。
その上で、「では、この求人案件は、自分にとってその期待値に満ち、自分としてもこれからの仕事人生を賭けるに足ると本音で思えているだろうか?」について自問自答していただければと思います。

この3つの「なぜ」が一つでも曖昧、不明瞭であれば、いま転職活動を活発化させるべきではありません。
平時以上にこれらがはっきりしていない人には、望ましい新天地を勝ち取れる可能性が大きく下がっています。そうした人は、この3つの「なぜ」が自身の中でくっきり浮き上がってくるまで、現職での役割をしっかり全うしましょう。それからでも、<良い転職>は決して遅くはありません。

ではまた、次回!

井上 和幸 氏

株式会社 経営者JP / 代表取締役社長・CEO

井上 和幸(いのうえ かずゆき)

1989年早稲田大学卒業後、リクルート入社。2000年に人材コンサルティング会社に転職、取締役就任。2004年よりリクルート・エックス(現・リクルートエグゼクティブエージェント)。2010年に経営者JPを設立、代表取締役社長・CEOに就任。 『社長になる人の条件』(日本実業出版社)、『ずるいマネジメント』(SBクリエイティブ)『30代最後の転職を成功させる方法』(かんき出版)など著書多数。